らーめん志士さんの奥様は…もしや生ける【福の神】?
鹿児島に在住していた頃、私は「ラーメン屋の女房」というシリーズ記事を自サイトに掲載していました。
その内容は店主さんを支える奥様にスポットを当てたインタビュー記事で、妻の立場ならではの体験談やそれに裏打ちされた言葉などを綴ったものです。
らーめん志士さんのお店に初めて伺った際、女将・恵さんの素敵な笑顔と心のこもった接客応対に感激し、この方にぜひ「ラーメン屋の女房」としてのお話を伺いたい!と強く思ったものです。
そしてこの度、お時間を頂いてインタビューをさせて頂いたのですが、お話を伺えば伺うほどに
「ラーメン屋の女房」
‥‥というよりも。
このお方、なんだか人間を超えた存在のような気がしてきましてね~。
ご本人はまったく天然自然のままのお振る舞いや発言をなさるのですが、それがとにかくMakotoのツボにハマりまくり。
時にはドキッとするような怖いボキャブラリーを駆使しつつあくまでも無邪気。「もしやこの人は御神託を告げる巫女では?」と思うことも。
いや、巫女というよりはもっとユーモラスな存在で「座敷わらし」とか、実在した福の神「仙台四郎」さんとか(Makotoと同じ大阪出身ということを考えればビリケンさん?)。そんなイメージが頭から離れなくなりました。
というわけで今回は別所 恵さん、いえ、
「めぐちゃん」
という不思議な福の神様のお話を書かせて頂くことと相なりました!!
【ご利益その壱:待ち人は職持ちて来るなり】
めぐちゃんはとにかくいつも楽しそう。
お店ではお客様とおしゃべりをしては笑い・笑わせ、お客様も恵さんに喜んで話しかけてこられる方が多いです。
でもご主人の店主:武さんから
「お客さんがラーメン食べられないから、食べ終わるまで話しかけちゃダメ!」
と叱られる事もよくあるとか(笑)
さぞかし人と接する仕事がお好きなのでは、と私が言うと
恵さん「それがね、結婚前は銀行で事務やってたんです~。窓口じゃなくて後方事務。全然人としゃべらず黙々と仕事してました~」
武さん「意外と接客、好かんのですよ」
とのお答えが!
意外過ぎです‥‥。
どうやら「接客業」としてではなく、ごく自然に「人とおしゃべりをする」のがお好き、のようでした(笑)
こちらに嫁いで来られてからは専業主婦で、見ず知らずの土地で家にこもる日々も苦ではなかったそうですが、
「退屈してきました~」
とのこと(笑)
もともと点字を学んでいた恵さんは手話も経験したことがあり(ご自身の結婚式ではお友達と手話コーラスを披露されたことも)、お友達が欲しくなったので小倉の手話サークルに参加されました。
そこで出会った方々と仲良くなって、様々なパート仕事を紹介してもらったそうです。
保育士さんのお友達からは資格無しでもできる保育所育児サポートの仕事を。
「食事タイムにテーブル運んで、終ったらまた片付けてとか、力仕事から雑用まで何でもやってました♪でも妊娠がわかったんですぐ辞めました(笑)」
薬剤師のお友達からはこれまた資格無しでできるBCG接種のサポートの仕事を。
「集団接種でいろんなとこに行きました。これは“ど短期”なのでちょこちょこと、2~3年くらいはやってましたね♪」
女性の友達って仲良くなるのはたやすくても、一緒に仕事をしようと誘ってくれる関係にまでなるのは難しいところがあるのではないでしょうか。
でもめぐちゃんの場合は「なんかほうっておけない」「世話してあげたくなる」と思わせる、強烈な魅力がきっとあるように思います。
その後、お子さんが小学2年生になられた時、ついに「らーめん志士」が中井の5坪の店で夜だけの営業を始められました。
(開店にまつわるエピソードは“志士道 ~ らーめん志士のものがたり ~”をどうぞ)
「オープンの時は万全の体制でスタンバイしてたのに、お客さんは全然来なくて『私、いらんやん!』って(笑)」
かくしてめぐちゃんは営業中にお店に出ることはなくなりました(笑)
【ご利益その弐:心たのしくする者は自由なり】
「その当時の私の仕事はコップの世話(翻訳:洗浄)とお米を洗うのと買出しでした。といってもお客さん来ないから、買い出しもそんな大層なものでじゃなくて。普通にスーパーに買い物に行く感じ。そんで『ここのネギ高い』となったら別のスーパー行ったり、あそこでは○○円やで!とか情報を仕入れてはこの人に教えてました~。(ご主人に向かって)ね、いっぱい見て教えたげたわよね♪」
‥‥なんだか「おつかい」楽しんでますね。
「スープの材料の豚骨もお客さん来ないから(笑)そんなにいらんかったんで、業者さんに配達してもらうんじゃなく、自分が車で買いに行ってました。でも店のおっちゃんに頼んで骨を車まで運んでもらったんで、私は楽でした♪」
‥‥なんだかちゃっかりしてますね(笑)
「11月からは志士が昼も営業するようになったんで、10時~16時までは私も店に出ることになったんですけど、13時頃になったらもういいんちゃうかな?って『私、帰っていい?』(笑)」
‥‥なんだか「放し飼い」状態ですね(^^;)
めぐちゃんは当時ヨガにも通っていて、つい11時半頃までヨガを続けてしまい、お店に行くのが遅れることも。
「ヨガ終ってから行ったら満席になってて、さすがに『こらアカンわ!』ってなってヨガは辞めたんです(笑)」
また、当時の店はとなりが小学校で、運動会が近くなると練習する息子さんの姿につい見入ってしまうことも。
「あ、もうすぐタイキが走るから、見終わったら店行こう、って。気付いたらとっくに昼になってたとか(笑)参観日とかも店行くの忘れてしまいそうに~♪」
Makoto「‥‥こんなんバイト店員やったらクビになってますやん」
武さん「クビにできんからバイトよりタチ悪い(苦笑)」
ここですかさず、めぐちゃんはこう言い放ちました。
「私、お店手伝っても無給やったから(笑)文句言われる筋合いない~(爆)」
Makotoはお話を伺いながら、実はかなりカルチャーショックを受けていました。
今までお話を伺ったラーメン店の奥様方は“給料をもらう”という発想どころか「私が支えなくては」という意識しかお有りでなくて。
なかにはハードな看護師の仕事を毎日フルタイムでこなしてから勤務終了後に店へ行き、時には夜勤明けの不眠不休状態のままお店に入って、店主であるご主人を手伝う日々を必死で過ごされていた方もいました。
またある奥様は「手伝ってあげてるじゃない」「こんなにしてあげてるじゃない」とご主人につい言ってしまった時に
「俺はその言い方、一番嫌なんだよ。お前は自分の店と思っていないだろう。自分の店のため、自分のためにやってるんじゃなく、やってあげてるって思っている」
と返され、「その時初めて気がついたんです。見返りを求めて何かをするのではなく、自分のために今できることを精一杯やるべきなんだって」と、自分の考え方を変えたという方もおられました。
ところが、めぐちゃんはけろりと
「本気で店で働くようになったんは、こっち(中原)来てからやね」
と、おっしゃる。
この時思ったんです。
私も他の奥様方もラーメン屋の女房としての望ましい姿というか、ある種の理想型を無意識に当てはめていたのではないだろうか、と。
かといってそれが間違いだとか、旦那さんに無理強いされてるからそうしたとかそういうことでもなく、皆さんご自分で選んで、気づいてそうされた。
そんな奥様方の言葉や意識に心打たれて、私は言の葉をつむいできたのも真実でした。
そしてまた、こう思いました。
「ご主人をとことん支えようと尽くす奥様方は正しい。そしてめぐちゃんにはめぐちゃんの正しさがある!」
どちらが良い悪いというのではない。ましてや夫婦の間にはそれぞれの価値観があるのだから、その夫と妻の間で望ましい形ならそれがベストではないだろうか、と。
「嫁に叱られる事があまりにも日常過ぎて反論する気など遠い昔に忘れてしまいました(笑)ていうか嫁の言うことの方が9割方正しいので」
‥‥武さんがこんなことをおっしゃっておられたことも思い出しました(笑)
【ご利益その参:抱え人解雇にても争事なし】
らーめん志士が中井の5坪の店から中原に移転オープンした際、店には4人のパート女性スタッフが居られました。
「志士ガールズ」と命名されたみよこさん、えりさん、まゆさん、あきさん。
中井の店からの仲良しご近所さんだったHerb Cafe Sora*Soraのオーナー、アイコ(秋永 亜伊子)さんから紹介された方や、息子さんの幼稚園や小学校での「ママ友」からの長いおつきあいのある方など、この方々は皆めぐちゃんのお友達でした。
アイコさんご自身もオープン初日からの数日間は、ご自分の店を休みになさってまで手伝いに来てくれたそうです。
奥様の人柄がご縁を結んで、忙しくて大変な時にみなさんが手伝って下さったのだろうなと私が感動した次の瞬間、またもめぐちゃんから笑顔で衝撃の一言が。
「でも全員解雇しちゃったんです~」
‥‥‥は?
移転オープンの賑わいが一段落すると、人件費が苦しくなってきたそうです。最初こそ2人だと足りず3人、そして4人を雇用。2人ずつの交替勤務でしたが、やがて1人ずつの勤務に。
「お店がヒマだからみんなとおしゃべりできて私はすごく楽しかったんですけど(笑)この人(武さん)はそういうわけにいかなくて。『メグと二人で頑張るから』ってみんなに話して辞めてもらうことに。私も『元のママ友に戻りたい』って卒業してもらったんです。でもみんな二度と来なくなったわけじゃなく、今でもラーメン食べに来てくれるし、ずっとお客様だから円満解雇です♪」
円満解雇。
こんな造語を生み出し口にできるめぐちゃん。やはり只者ではありません‥‥。
とはいえ、めぐちゃんがみんなからとても愛されて良いお付き合いをされているのは肌で感じ取ることができます。
志士道~らーめん志士のものがたり~を書くにあたって、中井の店やその周辺をめぐちゃんに案内してもらっていた時もそうでした。
中井のらーめん志士の跡地でお花屋さんをしておられる「初恋花」の田村さんも
「素敵な店には素敵な人(恵さん)が居る、そして素敵なお客さんも集まる」とおっしゃっておられてましたし。
めぐちゃんがアイコさんから「知り合いが一杯いるから」と教えてもらったCobaco Tobataのマルハチ珈琲焙煎舎さんも、私が「らーめん志士さんからの紹介で来ました」と言うと喜んで下さってました。
「これもCobacoで買ったんです~お気に入り♪」とカバンをはじめグッズを見せてくれためぐちゃん。
店内の観葉植物もCobacoのお花屋さんFlor Folha(フロル フリア)さんからのプレゼントだそうです。
アイコさんのお友達だったことからめぐちゃんとのご縁が始まった、
創作家庭料理とお酒bocchi(ボッチ)のママであるちぃさんも
「おめぐはとにかく可愛らしい❤おめぐを見ているだけで、私も頑張ろう、愛される人間になりたい、などなどプラスな感情しか沸いてきません(^▽^)とにかく、出逢うことができて心から感謝しかありません!」
と、めぐちゃんへの愛を熱く語って下さいました。
赤子のような無垢な心で思うがままに生きているめぐちゃん。その素直さ、無邪気さに惹かれて皆が自然と手を差し伸べずにはいられなくなる。そうして生まれたご縁が今のらーめん志士を成り立たせているのではないでしょうか。
ご夫君であられる武さん自身も、そのことは一番良くお分かりでいらっしゃいました。
「なかなかお目にかかれないタイプの人なので逃げられないよう頑張ります(笑)なんにしてもこの人が嫁で良かったと思っておりますよ」
これはもう生ける福の神として皆で崇め奉り、そのご利益に預かるほかありませんね(^▽^)
出で出で このついでに
楽しうなるよう語りて聞かせん
朝起き迅うして慈悲あるべし
人の来るをも厭うべからず
夫婦の仲にて腹立つべからず
さてその後に我らがようなる
福天に如何にも福を結構して
さて仲秋には古酒を
いやというほど盛るならば
いやというほど盛るならば
楽しうなるこそ芽出たけれ
~ 狂言「福の神」謡より ~
(2019年4月初出、2024年10月加筆)