~2010年12月に生まれた新・鹿児島ラーメンの誕生秘話~
「三人寄れば文殊の知恵」
とはいうが、“鹿児島ラーメン三兄弟” 竹中茂雄・ろいまん・Makotoの3人にいたっては頭の働きが良くも悪くも活発すぎて「囲炉裏の灰飛ぶ」「富士の山でも言い崩す」爆笑放言かしましいことこの上なかった。
しかしながら2011年の九州新幹線全線開通に向けて「新・鹿児島ラーメン」を開発しようという企画が挙がった時はさすがに違った。
三人でいろんなアイデアを何度も真剣に話し合い(といっても私Makotoはただ食べたいと言うだけ)‥‥でもやっぱり脱線は多かったが。
mixiの鹿児島ラーメンコミュニティで募った意見のなかの
「鹿児島ラーメンを銘打つのならば、そのテーマを『地産地消』として、鹿児島をアピール出来るものであって欲しい」
「豚だけでなく鶏も特産品であり、消費量も多い」
という声を受け、魚介系ラーメン一軒目店主である竹中くんがこんなことを述べた。
「食材は鹿児島のものを使うのを大前提として、目的を定める必要があると思う。
鹿児島へ観光客を呼びたいというのであれば、あれを食べに行きたいと思わせるインパクトがないといけない。
たとえば『鹿児島にはスゴイ肉がある!』とか、ビジュアル的にも食べたい!というトッピングでないとインパクトが足りなくなる。かといって何でも足せばいいというわけではなく、足すにしても引くにしてもインパクトが必要だ。
また、時間も余裕もある旅人は(何食も食べ歩きするので)、こってりした味やボリュームがあるラーメンはむかないと思う」
さらに、串木野で町おこしとして「まぐろラーメン」開発に関わった際の体験談として、こんな言葉も。
「まぐろラーメンがなぜあのように人気が出たかというと、鮪という魚は日本人が一番好む魚だったから。単に珍しい食材というだけでは、多くの人は食べてみようという気になりにくい。
馴染みがあって美味しいということもわかっていて、それでいて新しさを感じさせるプラス要素が必要だ」
竹中くんのこの意見は2010年2月に行われた薩州麺業連絡協議会の場でも提唱されたものの、同じ方向性を持つには至らなかった。
かくしてこの3人の間でのみ「真の“新・鹿児島ラーメン”」を追求することとなったのだった。
HP「ろいまんの鹿児島ラーメンPLUS」管理人で、ラーメンに関する知識と分析力に並ぶ者がない麺人ろいまんさんがまず提案。
ろいまん「スープは鶏白湯。前に魚介とのダブルも提案しましたが、それは竹中君のお店が魚介と鶏をもともと材料に使っているんで、他の材料を使ったり偏ったりして、仕入れのリスクを背負わせたくないなというのが本音でした」
竹中「その辺は大丈夫ですよ。今回は『これでもか、これでもか』みたいな手間はかけてあげたいラーメンにしたいんです。みんなの思いがあるから」
ろいまん「大丈夫?ならよかった。では今回はむしろ鶏白湯のみでいったほうがいいかなと思います。トッピングはニラ、鶏肉(手羽でもいいけど、鶏チャーシューも美味そう)、ネギ、揚げ(ネギorニンニク…ネギの方がいいと思うけど)を使うか、ゆず皮か。粘度が欲しい所なので、ここでお米を何とか使えないかな‥‥ジャガイモとかも良く使うようだけど」
竹中「ラーメンのイメージとしては、鹿児島ラーメンなんだけどちょっと頭ひとつ抜けてる感。粘度はいいと思います」
Makoto「でも後味すっきりで。またすぐ食べたくなるような。見た目も緑とかトッピングが彩り鮮やかなのが嬉しいかも」
ろいまん「鹿児島ならでは、ということであれば薩摩鶏とか、地頭鶏もいいかもしれません。両方とも鹿児島の地鶏。独自性もうまさも充分あると思います。コストが高いのはこの際、目をつぶって…(笑)姶良・蒲生近辺で有用と思われる食材については干しタケノコ(旬だったら生のコサンタケを使うのもよかったかも)、生椎茸、干し椎茸、地場の干し山菜、蒲生の製油所が作っている菜種油あるいはごま油‥‥」
しかし、肝心要の鶏白湯スープに関しては大きな難関が。
乳化系スープの弱点ともいえる「長時間炊き続けないといけないため、休みが取れない」「ガス代がかかる」「骨を砕いて潰すなど、大きな労働力を費やさなくてはならない」という要素が、この企画の前に立ちはだかっていたのだった。
その後、竹中くんが一瞬でスープを乳化(白濁)させる技術を開発したことで、新・鹿児島ラーメンは一気に完成へと急加速した。
竹中「当時ハンドミキサー等での乳化って、豚骨ラーメンのスープを作る際の乳化の手助け程度にしか実際には使われていなくて。豚骨スープなので通常はある程度大量のスープを長時間煮込んで作らなければならず、当然時間がかかるのですよ。それの手助けね。
新・鹿児島ラーメンにおいて、上湯で煮込んだ“鶏皮”をハンドミキサーにかけることで簡易的に鶏白湯にする方法を私が考案したのには意味があって。
長時間の炊き込みいらず、時短と燃料コストも削減。しかも少量でも出来る鶏白湯って、小規模のラーメン店など、大きな冷蔵庫、煮込み用のガス台を設置出来ない店も作ることが出来るんです。ここに価値がある」
竹中くんがこう語っていたように、新・鹿児島ラーメンにはラーメン店主の方々へのメッセージがこもっていた。
そして2010年11月26日、ついにプロトタイプ1号をろいまんさんが試食。
ろいまん「チャーシューは鶏をコンフィにしたもの。 スープは生姜の効いた鶏白湯。 全体的に斬新なんだけど、揚げネギと、香る鶏の匂いでなぜかノスタルジーを感じさせる一品になっている。正直、やっぱり旨いよ。竹中君の作るラーメンは」
12月2日、さらに改善を加えたプロトタイプ2号をMakotoも食べることが出来た。
なんという気品あるビジュアル‥‥。
「鹿児島ラーメン界の貴婦人」と言ってもいい、気高い美しさ。
乳白色のスープにニラの翡翠色が映えて、また“昔ながらの鹿児島ラーメン”へのオマージュである、きくらげと揚げねぎの配置バランスもいい。柔らかくてジューシィで薫り高い鶏のコンフィも素晴らしい。
そしてそのスープ。
一口すすったその瞬間から「う‥‥旨すぎる!!」
鶏白湯スープは口当たりも喉越しも究極のまろやかさ。乳化スープならではの粘度が麺によく絡み、鶏のコクとうま味が何重にも広がり深まる。
かといって食べ進むうちにくどく感じるとか、または食べ飽きるということがまったくなく、最初から最後まで美味しさの感動が絶えることなく続くのだ。
長時間強火で煮込んだり、骨を潰したりして作ったわけじゃないからまったく雑味がない。だからすごい。
過不足いっさいなし。完成度が云々のレベルじゃない。
「足すにしても引くにしても、インパクトが大事」と企画の時点で竹中くん自身が言っていたように、味にしてもこれ以上何も引かず何も足さない、そのままのこれこそがまさしく絶品。
鹿児島の特産物、そしてその生産者の方々の思い。
こんな鹿児島ラーメンがあったらいいなと願う鹿児島ラーメンファンの思い、伝統と革新を追い求めた店主の思い。
そのすべてがつながって出来上がった真の“新・鹿児島ラーメン”。
この至高の一杯はこうして生まれた。
その後、鹿児島ラーメン紀行@まことめんこむに掲載した「一軒目 その4 真の“新鹿児島ラーメン”誕生」「ラーメン屋の女房 一軒目編 うまいラーメン屋には、うまい女房あり」について福岡のRKBテレビ「豆ごはん」のディレクターより取材依頼があった。
2011年3月放送の「豆ごはんスペシャル」でこの新・鹿児島ラーメンが紹介され、鹿児島での放送はなかったものの番組内で3人が共演したことは忘れられない思い出となった。
この共演から長い時が流れたが、竹中くんの新・鹿児島ラーメンを超える鶏白湯ラーメンに私は未だ出逢っていない。
その最大の理由は「ろいまんさんの醤油ラーメン」と同じく「思いの丈(たけ)」によるものだろう。
このラーメンを生み出すこと・味わうことにかけた三人の時間と思いの深さは、他の鶏白湯ラーメンがいかに優れていたとしても比べることなど出来ないのだから。
(2019年2月初出、2024年10月加筆)