鹿児島を代表するラーメンマニアろいまんさんが精魂込めた至極の一杯
「どんな名人が作る料理も、お母さんが子供のことを思って作る料理にはかなわないんですよ」
これは昔、一軒目店主の竹中くんが言った言葉。
料理の美味しさには食材や調理方法の良さなどの条件だけでなく「思いの丈(たけ)」が大きく関わってくる。
人を思う(愛する)心の、ありったけ。
2018年3月24日、私はそんな思いに満ちた一杯のラーメンを頂いた。
そのラーメンの美味しさを、私は一生忘れないだろう。
鹿児島ラーメン界で知らぬ者は居ないほどの人物。
その名は「ろいまん」さん。
ラーメンに関する膨大な知識と卓越した分析力を持つ男。
HP「ろいまんの鹿児島ラーメンPLUS」にて紹介されている膨大な数のラーメンを食べ歩いた超麺人である。
彼と知り合ったのはもう15年以上前。
SNS「mixi」で鹿児島ラーメンコミュニティの管理人をされており、当初は文体などから「生真面目で落着いた年配の男性」と勝手に思っていた。
ところが実際に会ったらシャイで繊細な童顔のにいちゃんで。芋とか自作のハムとかいろいろ持ってきてくれる、いわゆる「尽くすタイプ」。
機知に富んでて時々毒舌も効かせてくるし、またウルトラマンレオやエヴァンゲリオンが好きだったり筒井康隆を愛読してたりと、引き出しが多くていじり甲斐がたっぷりな面白い人だった。
そんな彼から2008年12月、こんな相談を受けることに。
「一軒目の店主、竹中茂雄さんが『ラーメン屋を始めよう(仮)』という本の執筆依頼を受けているそうです。その本の中でイラストや図解をしてくれる人を探しているとの事です。 そこでMakotoさんの事が頭に浮かんだので、もし宜しければ、考えていただけないでしょうか」
これが縁で竹中くんの「そうだ!ラーメン屋になろう!」のイラストを担当することになり、ここに魔のバミューダ・トライアングル?
“鹿児島ラーメン三兄弟”(女だけど長男:Makoto、次男:ろいまんさん、末弟:竹中くん)が誕生した。
その後、三人の関わりの中で「新・鹿児島ラーメン」が生まれ、私が2011年に福岡に転居した後も、ろいまんさんがTV出演を重ねたり、竹中くんが郷土愛を込めた「あいらはちみつ杏仁豆腐」を生み出したりと、鹿児島ラーメン界に良き影響を与えているのを聞いて嬉しく思っていたものだ。
ただ、竹中くんとろいまんさんの間柄には目に見えない変化が起こっていた。
竹中くんもろいまんさんも私には弟のような存在で、どちらも大好きで大事な人だったから、二人がそういう状態だったことはとても悲しいことだった。
2017年春に私が鹿児島に戻り、竹中くんからの依頼を受けて彼との対談ブログ「鹿児島ラーメン気になる話。」を始めた理由も、ひとつには竹中くんとろいまんさんとの橋渡しのきっかけになればとも思っていたから。
幸か不幸か、脅迫まがいの一件が起こったことを機に、再びろいまんさんを交えた3人で交流できるようになった時「これで二人の間も昔のようになれるかも」と、私はホッとしたものだった。
そして2018年3月24日、竹中くんの店一軒目において、ろいまんさんが「週末ラーメン職人」という企画で自作ラーメン「ろい麺」を披露することとなり、もう私は嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。
ろいまんさんは以前から自作ラーメン作りに凝っていて、とても素人とは思えない逸品を生み出してきた実績がある。
ここに紹介した画像はほんの一部とはいえ、一見しただけでそのレベルがおわかりかと。しかも今回は竹中くんとのコラボラーメン!
竹中くんの作る唯一無二のスープに、ろいまんさんが(体調を崩すほど心身をすり減らしながら)作った麺に極上醤油ダレ、2種類の手造りチャーシューがどんなハーモニーを奏でるのかと、わくわくどきどきして前夜はほとんど眠れなかったくらいだ。
当日は厨房に二人が並んでいる姿を見ているだけで嬉しくて、試食に参加して下さった上脇さんと冨永さんがなかばあきれるほどに写真を撮りまくっていた私。
ろいまんさん自身も嬉しくて落着かないから、ピントが合わないことこの上ない(笑)
お披露目の前に一杯を3人で取り分けて試食してみた。
なんと薫り高い‥‥
これが、ろいまんさんと竹中くんの夢のコラボラーメンなんだ。
美味い!旨いっ!上手過ぎる~!!!
何なんだこのスープの深い味わいは。
ろいまんさんが厳選に厳選を重ねた醤油やみりんの効果?
ラーメンのスープなんだけどお蕎麦のつけ汁のようなニュアンスもあって、1杯で2倍、いや何倍も美味しい!
麺がもちもちで旨みたっぷり。
これは春よ恋・筑紫こがねとかすごい小麦粉使ってるから?
足踏みと熟成のたまもの?
ろいまん工房のレアチャーシュー最高!
肴にしたいから日本酒を、いやこれに合わせるなら極上でないと。
私の一番のお気に入り「吉平 梵」を誰か持ってきて!
今までそりゃあたくさんのラーメン食べてきたけど、そのどれとも比べることが出来ない!
「とくべつ」な美味しさだよこれは!
感激しまくる私に続いて、竹中くんからも「旨い!」って言ってもらえた時のろいまんさんの嬉しそうな顔ったら。
実は一ヶ月ほど前にはろいまんさんの口から「ろい麺は封印します」発言も飛び出していた。
久々に竹中くんの塩ラーメンを一軒目で食べて、その超越した旨さに打ちのめされていたのだ。
今まで数え切れないほど食べていたはずなのに、である。
「改めて凄い一杯だとゾッとした」
しかもその直後、ろいまんさんはダウン。
一時はこのコラボ実現は無理なのかと危ぶまれたが、竹中くんに自作ラーメンを食べてもらいたいという彼自身の強い思いのほうが勝り、ついにこの日を迎えることが出来た。
上脇さんと冨永さんからも絶賛のコメントが寄せられて、もうろいまんさんは天にも昇る心地だったに違いない(祝い酒に超酔っ払ってたし:笑)。
【上脇さんのご感想】
以前からろいまんさんの自作ラーメンを見るたびに「食べたい」と思っていました。
何回も食べたい、と直訴していたのですがそれが叶い嬉しい限りでした。
でも実はどこか粗がないかな?と思っていたのですが。
こだわりの醤油ダレを使ったと思われるスープは香りが良くとても新鮮に感じられましたし、麺も実は市販(しっかりした製麺所)の物を使っているんじゃないのか、というぐらいのレベルの高さでこれが自家製とは信じられませんでした。
チャーシューだけは今までも何回か頂いた事があるのですが、今回は質感の違った2種類を楽しむことが出来ました。
先日出張先の福岡で食べた同じジャンル(醤油ラーメン)のお店とも遜色のないレベルで大変驚きました。
流石に鹿児島1のラーメンマニアと思った1日でしたよ。有難うございました。
【冨永さんのご感想】
バカ舌なんで感想と言えるほどじゃないんですが(汗)
基本的に甘い醤油ラーメンになれてたんですが、
スープ自体の味が良くて麺との相性、2種類のチャーシューの味と肉質の違いに興奮してただただ無言で食べてしまいました(^-^;
竹中「やっぱろいまんさんって、ラーメンの理解が深いから、どうしてもマニアックって感じに思われちゃうんですよ。
自作ラーメンもめちゃくちゃ良い材料のオンパレードだし(笑)
今回の“ろい麺パーティ”(週末ラーメン職人)も自分では
『ラーメン業界の歴史が変わる瞬間』
だったので、本当。大成功でしたね!
自分もあれから『黒さつま鶏』の鶏油で醤油ラーメン作ってみたんですが、香油の香りが強すぎて全然ダメでしたね(笑)
ろい麺食ってしまって塗り替えられちゃった(笑)悔しいです(笑)」
竹中「こうやって、厳選された材料で、的確な調理をすれば誰でもラーメンを作る楽しみ、幸せを感じることが出来る。
これって一般の方は、“技術”では無くて、喜ばせたい、美味しいラーメンを食べてもらいたい!という“心”が大きいからだと僕は思っていて。
プロは特に毎日同じことの繰り返しで、忙しくしているとこの大事なことを忘れがちなんですよ」
ろいまんさん、竹中くんにここまで言ってもらえるなんて、寝込んでしまうほど自作ラーメンに打ち込んだ甲斐があったね。
美味しいね。嬉しいね。ほんとにほんとによかったね。
竹中「こうやって3人で試作や味見をしている時間に幸せを感じてました!中々こういうことって無いし、Makotoさんとろいまんさんは久しぶりの再会だったのでなおさら楽しかった!」
私はこの日のラーメンの美味しさを一生忘れないと思う。
作ったろいまんさんの笑顔も、美味しいって言いながら食べた竹中くん、上脇さん、冨永さんの笑顔も。
そして麺作りの相談相手からスープの準備、茹でた麺やチャーシューの盛り付けも何もかも、丁寧に繊細に仕上げてくれた竹中くんの思いやりも。
たとえ忘れ去られてしまったとしても、私は覚えているから。
一言一句たりともたがえずに、何度でも語りつぐからね。
(2019年3月初出、2024年10月加筆)